第2回:なぜ”新しい文化”が必要か

 第1回で拳道学が”新しい文化の創造”を行っていると言いました。新しい文化を創造することはたいへんなことです。創り出すものが高度であればあるほど、たいへんな労力がかかり、さらには多くの人からはなかなか理解されません。では、なぜそのようなたいへんなことを行おうとしているのか?ここでは、そのことに関して述べます。

現代社会の問題

 現在の社会は、100年前と比べれば明らかに進歩しています。特にこれは先進国においてはたいへん顕著に見られます。しかしながら、多くの様々な問題があることも周知の通りです。ここで一つ例をとって考えてみましょう。発展途上国の中には、内戦・紛争が絶えず、大変貧しい国が多くあります。実際、貧困の原因の最も大きなものは、干ばつなどの気候状況によるものではなく、内戦・紛争であると言われています。では、なぜ内戦や紛争が終わらないのでしょうか?もちろん、様々な微妙な政治的要因が絡み合っていることは誰もが知っていることでしょう。しかし、最も大きな要因は、その戦争を起こしている集団の指導的立場にある人々にあります。また、そのような指導者に何も考えずに、むしろ、より過激に反応しながらついていくたくさんの人々にあります。紛争がおきている国でも、実は紛争を止め、平和を願う人々が多く存在します。しかし、武器を持つ多くの人々を率いている戦争の指導者たちは、自分の立場の維持の目的で戦争を続けます。人間とは不思議なもので、当初は理想をかかげて活動をした人が、多くの人々の指導者となると、自分の立場を維持することを目的とした活動に転じてしまうことがあります。実際、このような指導者は過去においてたくさんいました。現在でもいるように思われます。
 同様のことは、もっと身近なところにもあります。例えば、日本のバブル経済崩壊後の不良債権問題も、企業の経営者や社員の構造などに同様の構図があります。ここでは詳細に述べませんので、皆さんで考えてみてください。

 一方で、社会を良い方向に導いた人もたくさん存在します。100年前と比べ現代社会が進歩していることがその証です。当時の問題点を指摘し、新しい考えや物を示し、様々な困難を乗り越えてそれを実現し、広め、最終的には社会を変革した人々が存在したことによります。政治家や大企業の経営者のような現在の社会に直接大きな影響を与える人は、その「力」の使い方を誤らなければ、社会を良い方向に導くことができます。しかし、社会を良い方向に変える人は、このような人だけではありません。新しい「もの」を作り出す人や既存の「もの」を発展させる人も社会をより良い方向へと進めていきます。

教育としての文化

 それでは、このようなリーダーを育成するには何が必要でしょうか?これは”教育”です。教育の場と言えば、一般的には”学校”になります。確かに学校の役割は重要であり、絶対に必要なものです。しかし、社会のリーダーの育成を考えるとき、学校だけでは不十分です。拳道学では、”文化による教化”が大切であると考えます。第1回で、文化は教育であることを述べました。文化を通じた教育は、学校のようなカリキュラムに則ったシステム的な教育とは異なる効果があります。ある文化の中で長い時間活動をすると、自然とその文化の考え方から影響を受け、色々なことを学び、身につけることができます。例えば、日本で育った日本人は、システム的な教育を受けてはいませんが、良くも悪くも日本の文化・日本的な考え方が身についており、たとえ日本を離れて久しい人でも一生忘れることはないでしょう。また、身についたものは、学校での教育で身についたものとは異なりますが、しかし、大きなものです。つまり、文化による教育は、学校とは異なる方法の教育として大きな位置を占めるのです。

拳道学の目的

 拳道学では、このような文化の教育としての役割に着目し、”拳道学の文化を通じて、社会を良い方向に導く人を育成する”ことを目指します。社会を良い方向へ導く人は、その分野での専門的な知識は勿論持っていますが、それだけではなく、ものの見方や考え方など学校の教育で学ぶものとは異なる面で優れた能力を持っています。さらに、人とのふれあいの大切さ楽しさを知り、思いやりも持ち合わせています。拳道学では、このような面の教育には、文化による教育が適切であると考えています。そのために、”文化による教育”を目指すのです。そして、このような人を輩出していくことで、”世界の人々が和の精神を持って、安全で安心して生活できる平和な社会の実現”を目指しています。換言すれば、”人間としてあるべき姿を学び、悟ろうとする文化”です。このような目的をはっきりと掲げた文化は、過去から現在にいたる空手・拳の世界にはまったくありません。さらに世界の色々な文化を見ても、ほとんど見当たらないようです。したがって、拳道学は”新しい文化の創造”を行っていると言うことになるのです。
 では、拳道学ではどのような教育を行うのでしょうか?これは第3回の議題としましょう。