第2回で新しい文化の必要性とどのような文化が必要かについて述べました。文化は教育の場であり、拳道学ではそれを通して社会をより良い方向に発展させる人を育成しようとしています。そのため、拳道学は、技術だけを指導する空手とは根本的に異なり、指導方法もまったく異なります。したがって、拳道学を学ぶためには、拳道学がどのような教育を行っているかを知っておくことが大切になります。今回は、拳道学の教育について述べます。
教育の目的 これからの社会を良い方向に導いていく人に要求されることは、広い視野と深い見識、真実を見抜く能力、柔軟かつ論理的な思考能力を持ち、常に進歩しようとする心構えで、将来を見据えながら、新しいものを創造していく力を持つことです。さらに、平和を尊び、他人のことを思いやる心を持ち、人とのふれあいの大切さと楽しさを知ることです。このような人は単なる理想上の人であると思うかもしれませんが、世の人に役立つ大きなことを成し遂げた人は、多かれ少なかれこのような要素を持ち合わせています。 教育の一例:試合技術的観点から 拳道学の試合は、勝敗を決める目的で行われるものではなく、直接的な目的としては、格闘技術の研究と試合を行う者同士の技術向上を目的としています。技は実際の場面で使用できる技でなければ意味はありません。また、実際の場面は状況が様々であり、理想状況とは大きく異なります。真の技とは刻一刻と変化する状況下でも効果のある技です。このような技を追求するには、実際の場面での問題点を洗い出し、兵法理論に則りながら、何度も考え直し、改良に改良を重ねていかなければなりません。 理論的観点から 試合にはかならず相手がいます。技の研究と技術向上という目的で試合を行うには、互いに安心して試合を行う必要があります。また、相手との話し合いも必要です。ここに、平和を尊び、他人のことを思いやる心を持ち、人とのふれあいの大切さと楽しさを知る人を育成する要素があります。格闘技術では相手とのぶつかり合いと打ち合いが要求されます。このような状況で、安心して試合を行うには、”相手を信頼すること、相手に信頼されること”が必要不可欠です。拳道学の試合は闘いではありません。研究するための実験の場です。これは相手との信頼関係を築いて成立するものです。このような信頼関係を築くには、”相手を尊重し、思いやる心を持つと共に、それを実践”しなければなりません。競争主義の現代社会では、「勝つ」ことばかり取り上げられます。しかし、本当に必要なことは「克つ」ことです。「克つ」ことは、頭では理解していても、なかなか実践できません。拳道学では、”試合という実体験を通して「克つ」ことを体得”していきます。 まとめここでは試合を例にして説明しましたが、拳道学においては、試合は重要ではありますがすべてではありません。拳道学の練習では基本から技の研究など様々なことを行っていきます。これらには、「考えること」、「体験すること」、「話し合うこと」が必要となります。また、拳道学を学ぶ会員には様々な人がおります。その中にはある分野で非常に高い専門性を持つ人もおります。そのような人とのコミュニケーションも大切な要素です。拳道学を学ぶ場はこのような環境を提供する役割も持っています。拳道学では、これからの社会を良い方向へと導いていく人を育成するために、それに必要な人格・能力を学ぶための環境を提供します。会員は、そのような環境の中で長期間に渡り拳道学を学びながら、体験を通して成長していきます。拳道学の指導者は、そのような環境を形作るとともに、個々の会員の個性を考慮し、良い点を誉めることを基本としながら、適宜助言を行い、会員自らが成長していくことを助けるように指導しています。 |